[書評] システム設計のセオリー雑感

「システム設計のセオリー」赤俊哉著、リックテレコム

知人の赤(せき)さんが、最近書籍を出版されたので、感想を述べておく。
全体は、400ページとやや分厚くなっているが、平易なわかり易い文章で、行間も適度で非常に読みやすく、すんなり頭に入っていく印象である。初めてシステム設計に取り組む方や今までやってきたやり方を振り返ってみようというベテランにもお勧めである。

システム設計の上流工程について一通り解説されているが、設計の方法論について語っているものではない。筆者が設計にあたって大事にしているものを述べている。
設計手法は、オブジェクト指向ではなく、構造化分析でのデータ中心設計に近い。基調としては、Xupperという設計ツールの方法論(確かXradian)であるが、ツールについては全く触れていない。
筆者は、業務フロー(ビジネスプロセスモデル)とデータモデルを非常に大事にしている。特に、業務フロー図を基にしたユーザとの対話を大事にしている。
業務フローを書く際の注意事項として、業務の流れを書くのであってデータの流れを捉えるものではないとしている。欧米流の構造化分析ではデータフロー(いわゆるDFD)をベースとしていたのだが、現実のビジネスを捉えるためには、業務、即ちビジネスフローが重要であるとの警笛を鳴らしている。
ビジネスフロー上でいかなるデータが伝搬されているかをとらえ、それをデータモデルとして表わすということになる。そして、業務フロー上の業務プロセスやプロセスを構成する業務機能とデータとのC(生成)、R(参照)、U(更新)、D(消滅)を捉える事が重要と説いている。
CRUDは、データモデルの網羅性の検証やサブシステムの境界線を見るために作成することはあるが、正式な成果物としては省略するケースが多いが、筆者は重視している。
ビジネスプロセス、データモデル、CRUDの三本柱とUIに代表されるユーザビリティについて筆者の思いが語られた書である。
システム設計の全般に渡って淡々と述べているようであるが、そこには、筆者のベンダーとしてユーザーとして、長年システム構築に携わってきた経験に裏付けられた、強い信念が感じ取れる書である。
ベンダー時代の多重派遣で味わった挫折感、ユーザーに転じてからの講演、各種勉強会での成果が盛り込まれた力作となっている。お疲れ様でした。